2011 |
大沢貴紀 「大沢貴紀」 開催期間:2011年7月5日(火) 〜 7月10日(日) 開催時間:12:00〜19:00 定休日:月曜日 入場料:無料 |
芸術はおそいです。 むかし、ナポレオンが、ペストに苦しむ兵隊を見捨てているという噂が広がりました。 プロパガンダを担当する絵師のダヴィットは、それを否定するべく、ナポレオン自ら兵の様子を見守る場面を映した大きな絵を描いています。噂の広がりと絵の 完成のどちらが早かったでしょう。 複製技術時代に入り、メディアの速度は急激に加速しました。 不知火の海に、チッソが有機水銀を垂れ流しているのを暴いたのは、土本典裕のカメラです。それもリアルタイムで、株主総会で企業が叫弾されるその時も、そ こにいました。 このタイム感が熱ければ熱いほど、事実は真実になっていきました。 取り残されている。でもそれでいいと思いました。周りが加速していけばいくほど、僕が真面目くさって考えてる美術というもののスピードが明らかになる。そ の加速するメディアが取りこぼしたあらゆる事柄をかき集めて後世に残して行く。それはゆっくり見つけていくべきものなんだ。 だから、ある質問にぼくはこう答えました。「そのとうりだ。」「芸術にそんな力はないと思うよ。傷ついた人をすぐに勇気づけにいくなんて。それは僕の領分 じゃあないんだよ。」 この態度は果たして芸術的なのでしょうか。 ダヴィッドはそのリアルタイムという怪物と戦いました。土本の放ったフィルムは報道の概念を超え、時代に深く突き刺さり芸術作品として残されて行きまし た。 芸術はどこにあるのでしょうか。 到底不可能であっても、領分の外に出てしまっても、「ある」と信じ続け、実践してゆく。高速による激しい熱量と摩擦に耐え、取りのこされそうになってもし がみついて実践を続けてゆく。そこに芸術はいます。 今回SAKuRA GALLERYにおいて、僕にさきの質問を投げかけた人との議論のゆくえを展示します。ここにあるものは質量や熱をほとんど持たないつまらない物質に見え ても、”大沢貴紀”が苦しんだ痕跡、排泄物です。どうか、美術史に燦然と輝く芸術の、0.000000000000000001パーセントの輝きを見いだ せていただけたら、とても幸いに思います。 |